七年ほど前、当時の「Latest Developments-デベロップ最前線」の筆者であるアーロン・フォーサイスが「開発部の黒歴史」と題された記事を書いた。その中で、彼はマジックの歴史の中で有名な壊れカード(適者生存、ドルイドの誓い、トレイリアのアカデミー、ヨーグモスの意志等)に対するマルチバースのコメントを共有し、こう締めくくった。

「もちろん、完璧な人間など存在しない。今より十年後にやってきた開発部の新しいメンバーが、我々の最近作ったカードを振り返って『何考えてたんだ?』と言う事もあるだろう。私はただ、彼らがこんな記事を書かないでおいてくれるのを願っている」

アーロンは、これをダークスティールの発売日から14日後に書いていた。


今週はミラディン週間だ。いくぞ。


Thirst for Knowledge / 知識の渇望 (2)(青)
インスタント
カードを3枚引き、その後アーティファクト・カードを1枚捨てないかぎり、カードを2枚捨てる。


まずは前菜から。知識の渇望はこの記事の中で最も防御的なカードだ。それでいて、スタンダードやエクステンデッドでリーガルな間は頻繁に使用され、ついにはMana Drainデッキがヴィンテージを支配した時、Moxとの相性を見込まれて禁止されるほど強力であった。こいつが印刷に至るまでに、開発部が何と言っていたか見てみよう。なお、彼らのプライバシーのためにイニシャルはD1、D2などと変更している。まだ一緒に働いてる人も数名居ることだし……。

 D1 9/9:インスタントにしないの?
 D2 (9/11/02):もともとはインスタントだったんだけど、時々ドロー呪文として使われるからソーサリーになった。

開発部として抜け目の無いコメントだ。

 D3 9/12 こいつは実際アーティファクト土地の入ったデッキでなら本当に良いドロー呪文だよね。
 D4 9/1 同意、これ手札交換じゃなくてドロー呪文だよね。

それに気付いてくれて嬉しいよ、少なくとも。

 D5 9/16: チームはコモンにしたいってさ(アンコモンは……一時的だったぽい)

私は、こいつがコモンで出てくるドラフト環境は想像したくない。おそらく、皆が皆青を選ぶことだけはわかる。

 D4 9/27 テストよろしく

これから先のカードに比べれば、こいつはまだマシなカードなんじゃないかな。

Disciple of the Vault / 大霊堂の信奉者 (黒)
クリーチャー ? 人間(Human) クレリック(Cleric)
アーティファクトが1つ戦場からいずれかの墓地に置かれるたび、対戦相手1人を対象とする。あなたは「そのプレイヤーは1点のライフを失う」ことを選んでもよい。
1/1


大霊堂の信奉者は、ダークスティール発売後に環境を支配した高速アーティファクトデッキ、所謂「親和」デッキの2枚の最強のカードの内の1枚である。もし君が60枚の内45枚アーティファクトが入っていて、尚且つそれらを意のままにサクる手段があるデッキを使っているなら、こいつは殆ど1マナ10点火力のようなものだ。

開発部の連中は「もし」で始まる疑問を考えるのが好きだ。その中の1つに「もしマジックのカード1枚をその歴史から消せるなら何が良い?」というものがある。その回答として出てくるカード第3位がこの大霊堂の信奉者である(1位と2位は後から出てくるよ)。

さて、ミラディンの開発者は何を話し合っていたか見ていこう。

 D1 10/15:新しいカード。白の新しい「魂の管理人」と対になる黒の可愛くて軽いクリーチャーが必要だった。

可愛い?

 D2 10/17 いいね

マジで?

 D1 11/26:白のに合わせてマナを軽くした。

駄目みたいですね。

親和デッキにボロ負けするプレイヤーを大量に生み出してまで、このマナコストの統一をやる価値が無かったことは確かだね。

Frogmite / 金属ガエル (4)
アーティファクト クリーチャー ? カエル(Frog)
親和(アーティファクト)(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき(1)少なくなる。)
2/2


我々はここに最初に親和能力を持って生まれたクリーチャーを見つけ出した。この実質0マナ2/2のクリーチャーが生まれるまでにどれほどの議論が行われたか?

 D1 10/18:新しいカード。チームが「実質ただで唱えられるクリーチャーを用意することでデッキを組むための動機づけをしたい」と言っている。

目的は達成された!

Myr Enforcer / マイアの処罰者 (7)
アーティファクト クリーチャー - マイア(Myr)
親和(アーティファクト)(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき(1)少なくなる。)
4/4


 D1 9/14 こいつはジョニー向けのデッキだと0マナになる"かもしれない"という話だよね
 D2 9/22: 8マナに戻す
 D1 10/17 いいね
 D2 10/18:推すためにマナコストを減らす。リミテッドで既に充分強かったのでその代わりにアンコモンに。
 D2 11/27: アーティファクト・クリーチャーと親和を良くするためコモンに下げる
 D2 1/2: アーティファクト・クリーチャーの水準がどれほどのものかもう少しテストする必要がある。

1)このカードの実質的なマナ・コストはスパイク向けのデッキでも0になりうる。
2)アーティファクト・クリーチャーの水準は高い。

一旦休憩して、親和という能力を扱うのがデベロッパーにとってどれだけ難しかったかの説明を行わせてもらう。我々は、"パッと見て弱く見える強いカード"というのがどれだけそのセットの初期の評判を悪くするか学んだ。そして、見かけより強いキーワード能力は、そのような"一見弱いカード"を生み出してしまう、とも。親和はそのような能力の1つだ。そして、デベロッパーたちは"パッと見での強さ"と"実際に使った時の強さ"のバランスをどう取るか、という厄介なプレッシャーに晒される。それは、とても居心地の悪いものだと思うし、全く羨ましいとは思わない。

Goblin Charbelcher / ゴブリンの放火砲 (4)
アーティファクト
(3),(T):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。あなたのライブラリーを、土地カードが公開されるまで上から1枚ずつ公開する。ゴブリンの放火砲はこれにより公開された土地でないカードの数に等しい点数のダメージをそれに与える。もし公開されたカードが山(Mountain)である場合、ゴブリンの放火砲は代わりに2倍のダメージを与える。公開されたカードを、望む順番であなたのライブラリーの一番下に置く。


ゴブリンの放火砲は一見可愛らしくて変なカードに見える。しかし、実際はPTニューオリンズでのエクステンデッドにおいてマナ切り離しとのコンボで2、3ターンでの勝利を可能にしたバケモノだ。レガシーやヴィンテージでなら土地0枚のデッキを組むことが可能なため、1ないし2ターンでの勝利も可能だ。このカードについてるコメントは何と1つしか無い。これだ。

 D1 11/15: デザイン提出からの新作。

私はこの記事に出てくるカードの中で、最もこれに共感を覚える。このタイプのカードはテストするのが本当に難しいからだ。この時は、スタンダードでのテストはしっかりと行っており、このカードはクールな事をしてくれるものだと考えていた。現在では、このようにエターナルフォーマットの自然な多様性を崩すようなカードは作らないように最善を尽くしている。それがしっかりと実行できているかに関しては未だに何とも言えない。

アーティファクト土地(古えの居住地と仲間たち)
Ancient Den / 古えの居住地
アーティファクト 土地
(古えの居住地は呪文でない。)
(T):あなたのマナ・プールに(白)を加える。


ついにアーティファクト土地までやってきた。これらは親和デッキと強烈なシナジーを持つ。実質的に2マナを供給しているのと同じだ。そして、電結の荒廃者やエイトグ、知識の渇望などのアーティファクトを餌として要求するカードとも強烈なシナジーを持っている。普通は、アーティファクトを沢山プレイするという行為は充分な土地を必要とする。しかし、その二つが混ざってしまったアーティファクト・土地は制限をぶっ壊してしまった。例えば、電結親和デッキは45枚ものアーティファクトが搭載されている。これはつまり、電結の荒廃者と大霊堂の信奉者が更に強力になってしまうということである。アーティファクト土地は最終的に、数枚のカードと共に全員禁止リストへと行ってしまった。

以下のマルチバースコメントは、5枚の土地全部に共通するものである。

 D1 9/16: これらは、色んな場面で私を混乱させてくる。

いいぞ……。

 D2 11/13: 単色の基本でない土地がそうだったように、これらも生み出す色と同じカード枠になります。

ああ、なんとこれで全部だ。

Skullclamp / 頭蓋骨絞め (1)
アーティファクト ? 装備品(Equipment)
装備しているクリーチャーは+1/-1の修整を受ける。
装備しているクリーチャーが死亡するたび、カードを2枚引く。
装備(1)((1):あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とし、それにつける。装備はソーサリーとしてのみ行う。このカードはつけられていない状態で戦場に出て、クリーチャーが戦場を離れても戦場に残る。)


ここでさっきの「もしマジックのカード1枚をその歴史から消せるなら何が良い?」に対する答えの第二位の登場だ。このカードは私の答えとは異なるが、それに値するだろうとは思う。あまりにも強力な無色のカードはフォーマットに対するガンである。2004年の地方大会は3つのデッキに支配されていた。頭蓋骨締めの入った親和デッキ。頭蓋骨締めの入ったゴブリンデッキ。そして、頭蓋骨締めの入ったエルフ軸の歯と爪デッキである。その年の世界大会進出者で、メインデッキに頭蓋骨締めの入っていないデッキを使っていたプレイヤーは20%よりも少ない、という結果が出ている。頭蓋骨締めは、速やかにスタンダードとエクステンデッドで禁止され、レガシーにおいてもあまりにも強力すぎると言う事で禁止カードに決定された。さて、こいつについて何をデベロッパーがどう語ってるか見てみよう。

 D1 2/11: うぇっ、こいつ前は「装備しているクリーチャーが墓地に置かれた時、カードを2枚引く」じゃなかった? そっちの方が好きだったんだけど。そっちがいい。
 D2 2/17: 私も古いほうがすきでしたね。
 D3 2/26 チームもこれは「私をサクッてくれ」テーマと機能しない事に同意してくれた。元に戻す。
 D3 4/30 引いてもよい/引く どっちが良い?
 D3 5/2 より良くするために数字を調整、あと囁き絹の該当とレアリティを入れ替えた
 D2 6/27: こいつは一部の電波デッキで活躍しそう。

……同じくらい、沢山の"普通の"デッキでも活躍したね。

AEther Vial / 霊気の薬瓶 (1)
アーティファクト
あなたのアップキープの開始時に、あなたは霊気の薬瓶の上に蓄積(charge)カウンターを1個置いてもよい。
(T):あなたの手札にある、点数で見たマナ・コストが霊気の薬瓶の上に置かれている蓄積カウンターの数に等しいクリーチャー・カードを1枚、戦場に出してもよい。


 D1 2/10 2から1に下げて、「あなたの」アップキープに変更(多人数戦の事を考えて。
 D2 2/11: 子供が喜びそう。

そして、マーフォークやゴブリンや電結の荒廃者やエクステンデッドの禁止リストも喜んだみたい。

これは、見かけによらず強力なカードだ。マナは、マジックの中心となるリソースの1つである。君に大量のマナをくれるカードはいつも壊れている。普通、そんなマナ加速は呪文を軸にした瞬殺デッキを生み出してしまう。デベロッパーたちは、このマナ加速が無害なクリーチャーを出すことしかできないから安全だと判断したのだろう。蓋を開けてみれば、それは間違いだった。このカードは、電結親和の一番強力な型の構築を生み出してしまった。たいてい、そのデッキでは霊気の薬瓶のカウンターは2を超えずにゲームが終わってしまう。ゴブリンデッキは薬瓶の力を存分に引き出し、5マナのはずの包囲攻撃の司令官をただで出していく。レガシーでさえも、ゴブリンやマーフォークと共に使われている。あまりに強力すぎて、2005年のPTロサンゼルスの前にエクステンデッドでは禁止された。

Arcbound Ravager / 電結の荒廃者 (2)
アーティファクト クリーチャー ? ビースト(Beast)
アーティファクトを1つ生け贄に捧げる:電結の荒廃者の上に+1/+1カウンターを1個置く。
接合1(これはその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。それが死亡したとき、アーティファクト・クリーチャー1体を対象とする。あなたは「その上にそれらの+1/+1カウンターを置く」ことを選んでもよい)
0/0


そしてこちらにおわすが「もしマジックのカード1枚をその歴史から消せるなら何が良い?」ランキングの堂々の1位である。この電結親和デッキの主人公は、この記事で今ま出てきたカード達とともに、その年のスタンダードを文字通り荒廃させてしまった。見ての通り、開発者たちはこのカードが好きである。しかし、そんなこのカードにも重大な変更が存在していたのだ。(注、"キメラ"ってのは電結のプレイテスト名)

 D1 3/4: こいつはとんだクソビッチキメラだな
 D1 4/8: こいつはキチガイキメラだね。こいつ大好き……
 D2 4/19: こいつが素敵なカードという票が二つも入ってるね。多分このセットの一番のお気に入りカードになりそう。

ドラムロールお願いします。ドゥルルルルルル……

D3 7/28: 組版に渡した直後に、開発部が3マナから2マナへと変更(7/9)

ジャン!きっとこれは、マルチバース内で生み出されたもっとも価値のあるコメントの1つに違いないね。

Trinisphere / 三なる宝球 (3)
アーティファクト
三なる宝球がアンタップ状態であるかぎり、それを唱えるためのコストが3マナ未満である呪文はそれぞれ、それを唱えるためのコストが3マナになる。(コストの追加のマナは好きな色のマナまたは無色マナで支払ってよい。例えば、唱えるためのコストが(1)(黒)である呪文は、代わりに唱えるために(2)(黒)を支払う。)


先週、私は三なる宝球がヴィンテージに与えるインパクトをもっと考えるべきだったことについて言及した。ダイスロールに勝って1ターン目にMishra’s Workshopから置かれる三なる宝球はマジックというゲームを本当に台無しにしてしまう。置かれた側は3ターン目になるまでMoxを唱えることすらできず、その後はからみつく鉄線に締め付けられるか、煙突でパーマネントを生け贄に捧げ続けるか、あるいは巨大戦車に殴られて終わる。これは、楽しいマジックのためにはあってはならないことだ。三なる宝球はレガシーやエクステンデッドでのコンボ対策という立派な仕事をこなしはしたが、それ以上にヴィンテージにおいてはコンボ対策とはかけ離れた壊れたカードを生み出してしまった。

 D1 2/11:私はD2のこのカードを作った意図が気に入っている。競技向けのデッキに私のファッティ満載デッキが一泡吹かせるチャンスを、ということだね。コスト増加はティミーからスパイクへの逆襲の手段だ。
 D3 2/20: このカードはバカみたいだ。まるで「コインを投げて勝ったらNether Voidを置けるので勝ちです」って書いてるのと同じだ。みんなコイン投げで決まるゲームもNether Voidも嫌いだろうし、誰も幸せにならないカードだと思うよ。

最初のコメントで悲しくなった。ふたつ目のコメントで嬉しくなった。しかし、不幸にも勝ったのは最初のコメントだったようだ。

Cranial Plating / 頭蓋囲い (2)
アーティファクト ? 装備品(Equipment)
装備しているクリーチャーは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき+1/+0の修整を受ける。
(黒)(黒):あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とし、それに頭蓋囲いをつける。
装備(1)


頭蓋骨締めはミラディンブロック構築のPTQが来る前に禁止になった。しかし、依然として親和デッキは悠々と環境のトップに居座った。大体このカードのせいだ。大霊堂の信奉者を引くための大量ドローができなくなった代わりに、3マナでクリーチャー達に+11/+0を与えるためのデッキへと変わったのだった。さて、開発部のコメントを見てみよう。

 D1 (3/11/03): 新しい装備品。
 D1 (3/13/03): +2/-2から+3/-1へ。黒要素を足す。
 D1 (3/17/03): 装備コストを1から2へ。
 D1 (3/27/03): 1Bへ変更。
 D1 (4/10/03): 起動コストを1BからBBに、レアからコモンに。

了解、いいね。

 D2 7/3: ちょっと待ってね、"装備しているクリーチャーは+3/-1"に品質向上……もっと面白くしたほうがいいかも。

面白く?何言ってんだよ?

 D2 7/16: 変更した、屍族の能力を得るように……リミテッドで良くなったかな

おいおい、構築ではどうなるんだ?

 D2 8/13: 装備コストを1に.

マジかよ。それで良いと思ってるわけ?

君らの中にはこれらのカードを全盛期でやってなかった人もいるかもしれない。だが、私はこれらのカードを使ったデッキで2004年のオハイオでの世界大会で2位を勝ち取った。まさしく、これらのカードがどう使われてきたに対する生ける有用なサンプルだと言えよう。

Crucible of Worlds / 世界のるつぼ (3)
アーティファクト
あなたは、あなたの墓地にある土地カードをプレイしてもよい。


ここに、私がとても、とっても残念に思ってるもう1枚のカードがある。このカードが露天鉱床、ないしもっと有名な不毛の大地と合わさった瞬間、エターナルのゲームは破壊されてしまう。これが良く起きるのがヴィンテージとMOのクラシックで、前述のMishra’s Workshopを手早く出すのに使われる。コメントを見ていこう。
 
 D1 7/16: 2マナでテストしてみる
 D1 8/13: チームがパワーレベルを心配している、3マナでテストする

このカードに関してはいくらか釈明の余地がある。これがYou Make the Cardの優勝作品であることだ。公募によって生まれたカードのため、デベロッパーたちはこれを使えないカードにはしたくなかったのだ。スタンダードへの影響は小さかったが、不幸にもその他の競技フォーマットでは悲惨なゲームを生み出す結果になった。

Sensei’s Divining Top / 師範の占い独楽 (1)
アーティファクト
(1):あなたのライブラリーのカードを上から3枚見る。その後それらを望む順番で戻す。
(T):カードを1枚引き、その後師範の占い独楽をオーナーのライブラリーの一番上に置く。


 AF 10/24: 良くて魅力的で悪いカード。

 ああ、これは笑えるコメントだったね。これから7年後のこんな感じの記事で血祭りに上げられないように、私は願ってる。そりゃもう決まりの悪いもんだからな。

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